ArK Glade Journal #01 「事例を知る、その先へ」


「こういう場合は、どうしたらよいでしょうか」と尋ねられることがあります。

もちろん、制度上の決まりや一般的な考え方をお伝えできることもあります。でも、大学教育に関する相談には、「これが正解です」と簡単には答えられないことが少なくありません。

そして次に、「他大学の事例を教えてください」と要望をいただくことがあります。

他大学の事例を通じて、具体的な取組やグッドプラクティス、課題を知ることには大きな利点があります。特に、質保証の取組やそのための仕組みづくりなど、手探りで進めることの多いテーマでは、具体的な事例を知ることで、自分たちが取り組もうとしていることをイメージしやすくなります。

「他はどうしているのか」を知ることは、ケーススタディとして大きな意味を持つと思います。一方で、「どうすると課題になるのか」「何をすれば良い取り組みと評価されるのか」に終始してしまえば、第三者評価の「傾向と対策」で終わってしまいます。

もう一つ難しいのは、他大学の取り組みをそのまま移植しても、必ずしもうまくいくとは限らないということです。真似てみることが取り組みの第一歩になる場合もあります。ただ、そこから自分たちに合うようにアレンジしたり、見直したりすることが必要になるでしょう。時には、一からつくり直すこともあるかもしれません。

ここまで読むと、「それなら、他大学の事例を知っても意味がないのでは」「真似をしないと言われても、何から手をつければいいのかわからない」という声が聞こえてきそうです。

それは、とても自然な思いだと思います。むしろ、「他大学の事例を知りたい」と思うことは、自分たちの取り組みを考えようとする第一歩であり、大切な知的好奇心です。高等教育を支援する立場として、私たちはその思いを受け止め、事例を探し、分析し、お伝えするという支援ができます。

大切なのは、事例を「知った」ことで終わらせないことです。

自分たちの取り組みと比べてみる、どこが同じでどこが違うのかを考えてみる、なぜその違いが生まれているのかを考えてみる、自分たちは何を大切にしたいのかを考える。事例のその先が重要です。

大学には、それぞれの理念や使命・目的があります。それらを実現していくためには、他の事例も参考にしながら、自分たちなりの創意工夫を重ね、取り組みを磨いていくことが大切です。その創意工夫のためには、「やってみたいこと(構想)」「やってみてうまくいかなかったこと(失敗・課題)」「やってみたらうまくいったこと(成功体験)」を学内で共有することも必要です。

一人の経験も、共有すれば組織の経験になります。

共有の方法は、それぞれの大学に適したものでよいと思います。ただ、そこに「対話」があれば、人と人とのコミュニケーションが生まれ、単なる情報の共有を超えて、それぞれの経験から新しい気づきが生まれるのではないでしょうか。

この「対話」は、高等教育を支援したいと考える私たちにも当てはまります。

大学の皆さんのお話に耳を傾ける。そして、私たちが持っている知識や経験、外から見えることをお伝えし、意見を交わす。

そんな対話を通じて、大学に新しい風をお届けできたらと思っています。それは、何かを大きく変えるような強い風ではなく、そよ風のような、ちょっとしたものかもしれません。でも、その風をきっかけに新しい視点や自由な発想が芽生えることがあれば、うれしく思います。そして、新しい風をお届けしたいと考えている私自身も、大学の皆さんとの対話から学ばせていただくことがたくさんあるでしょう。

事例から学び、対話からお互いに学ぶ。

その先に、それぞれの大学自身が考え、つくり上げていく「質保証のかたち」があるのではないかと思っています。

Managing Consultant

中村 安希


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