QA Notebook | 新たな評価制度から考える、これからの質保証 #01データを活用した評価 ―データは何のために集め、使うのか―


Introducing the Series

いま、わが国の高等教育の質保証制度は変わろうとしています。「知の総和」答申を受けて文部科学省では新たな評価制度の構築が進められ、2026年6月にはワーキンググループによる議論のまとめが公表されました。

そこでは、学部・研究科単位の評価、段階別評価、学修成果による評価、データプラットフォームの活用など、新たな仕組みが構想されています。本連載では、こうした新制度の特徴的なテーマを取り上げ、国内外の質保証の取り組みなどを手掛かりに、これからの大学の質保証について考えていきたいと思います。

1.自己点検・評価の効果を高めるには

自らの取り組みを振り返り、評価することは、自律的な質保証の第一歩です。一方で、自らの取り組みがどのような成果を上げているのか、その有効性を根拠に基づいて説明することも、質保証の重要な要素といえます。

例えば、「良い教育を行うために努力しています」という説明だけでは、取り組みの成果や有効性を十分に伝えることはできません。しかし、「学生の主体的な学びを促すために、授業にグループワークを取り入れ、その結果、学生の課題解決能力にこうした変化が見られた」と、取り組みの目的や内容、成果を具体的に示せば、教育活動の実態をより明確に伝えることができます。

このような「説明」は、第三者に教育活動等の有効性を理解してもらうためだけでなく、大学自身が教育活動の成果や課題を客観的に捉えるうえでも重要です。そのため、自己点検・評価の効果を高めるには、具体的な事例やデータを根拠として用い、その成果や有効性を検証・説明することが求められます。

しかし、実際の大学の現場では、データの活用が質保証における課題となることも少なくありません。認証評価の結果においても、学内の各種データが十分に収集・分析・活用されず、自己点検・評価の結果が改善・向上に結びついていないといった指摘が見られます。

新たな評価制度で構想されているデータプラットフォームの整備には、こうした課題の解決に資する可能性があります。ただし、データを収集・蓄積し、利用しやすい環境が整えば、それだけで自己点検・評価が実質化するのでしょうか。大学が自律的な質保証に取り組むためには、何のために、どのようなデータを集め、それをどのように分析・活用するのかという目的意識が欠かせません。データを集めること自体が目的ではなく、そのデータを自らの教育活動の理解や改善につなげることが重要なのではないでしょうか。

2.米国WSCUCにおけるデータツールの整備・活用

米国の質保証機関であるWASC Senior College and University Commission(WSCUC)では、大学評価におけるデータ活用を支援するため、「Key Indicators Dashboard(KID)」というデータツールを提供しています。

KIDは、米国連邦政府が収集・公表するデータを活用し、学生数、在籍継続率、卒業率、学生の経済状況、大学の財務状況、卒業後の所得など、大学に関するさまざまな情報を可視化するものです。KIDの特徴は、単に個々の大学の数値を表示するだけではなく、複数年にわたる推移や全米平均、WSCUCが認定した大学の平均に加えて、比較対象として選んだ大学とのベンチマーキングができることにあります。

例えば、所属大学の卒業率が低下している場合、それが一時的な変化なのか、継続的な傾向なのかを確認できます。また、類似する大学と比較することで、自らの状況を相対的に捉えることもできます。もっとも、卒業率が高い大学が、必ずしも教育の質に優れているとは限りません。入学する学生の背景や大学の教育目的、学生に対する支援のあり方など、数値の背景にはさまざまな要因があるからです。

そこで重要になるのが、データをどのように解釈するかということです。

WSCUCでは、大学が自己点検・評価を行い、報告書を作成する際に、KIDを活用することを推奨しています。大学はKIDでデータを確認し、必要に応じて他大学との比較を行いながら、教育や大学運営の状況を分析します。また、評価者もKIDを参照し、報告書の内容を検討したり、実地調査における議論に活用したりします。KIDのデータは、最終的な評価判断にも情報を提供するものですが、ベンチマークの数値をそのまま合否の基準として用いる仕組みではありません。

WSCUCは、こうしたデータ活用を「Better Conversations, Better Data」という構想のもとで進めてきました。つまり、共通するデータの整備とともに、大学や評価者がデータを適切に理解し、大学の状況や改善・充実に向けた取り組みについて、より深く議論することが重視されています。データ活用によって評価を簡易にするのではなく、大学自身の自己点検・評価や大学と評価者との対話の充実を企図しているのです。

※WSCUC, Peer Benchmarking Guide をもとに筆者が作成

3.データを活用した評価で大切にしたいこと

日本の新たなデータプラットフォーム構想とWSCUCのKIDは、制度上の位置づけや機能が異なるため、単純に比較することはできません。

日本の構想では、評価に必要なデータを一元的に収集・管理し、評価者による確認や判断を支援するとともに、評価結果等を社会に公表する機能も想定されています。一方、WSCUCのKIDは、既存のデータを可視化し、大学による自己点検・評価や評価者による大学の状況の理解を支援するツールとして活用されています。

両者とも、データを有効に活用しようとしている点では共通していますが、「データを誰が、何のために使い、どのような判断や取り組みにつなげるのか」に目を向けると、考えるべきことが見えてきます。

例えば、ある大学の卒業率が全国平均を下回っていたとします。その数値は教育上の課題を示しているかもしれませんが、大学の理念や目的、学生の構成なども異なるため、数値だけで教育の質を判断することはできません。重要なのは、大学自身がその背景を分析し、必要な改善や教育の充実につなげているかということです。

WSCUCのKIDは、データの活用を通じて大学の自己点検・評価を支え、評価における対話を深めようとする一つの事例です。日本でもデータの収集や評価の効率化だけでなく、「大学がデータをどのように自らの質保証に活用するのか」という視点が欠かせないと考えます。

新たな評価制度を考えるうえで、最後に一つ、問いを残したいと思います。

―データは、大学を評価するためのものなのか。それとも、大学が自らを評価し、教育を改善するためのものなのか。―

この2つは必ずしも対立するものではありません。しかし、どちらに重点を置くかによって、データプラットフォームの役割や評価のあり方も変わってくるのではないでしょうか。

Managing Consultant

中村 安希

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【参考ウェブサイト】

・WSCUC, Key Indicators Dashboard

・WSCUC, WSCUC’s Approach to Evidence and Data

※WSCUCのデータ活用方針や「Better Conversations, Better Data」の活動を紹介

・WSCUC, Peer Benchmarking Guide

https://wascsenior.app.box.com/s/uij59ac07v7w0tjfs3zlfwhafynsh6m6

  


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